セブン&アイ・ホールディングスは2024年10月10日、傘下のイトーヨーカ堂が展開するネットスーパー事業から撤退することを発表しました。
新型コロナウイルス感染症の流行によって需要が急増したネットスーパーですが、消費者行動の変化や業界全体の競争激化が影響し、イトーヨーカ堂も苦戦を強いられていました。
この撤退の決断は、セブン&アイにとって重要な戦略的転換となります。
では、なぜこの決断に至ったのか。
そして、今後の小売業界にはどのような影響を及ぼすのでしょうか。
ここでは、その背景や業界全体の動向、そして今後の展望について詳しく解説していきます。
撤退の理由―計画を下回る売上と物流の課題
イトーヨーカ堂のネットスーパー事業は、昨年8月に横浜市に専用の大型物流センターを設立し、さらなる事業拡大を目指していました。
しかし、計画された売上目標を大きく下回り、収益性の確保が困難な状況が続いていました。
一部の報道によれば、当初の目標に対して達成率は70%程度にとどまっていたと言われています。
ネットスーパー事業は、店舗に比べて物流コストが非常に高くつくため、利益を確保するためには大量の注文処理や、効率的な物流体制が求められます。
しかし、都市部では交通渋滞や配達時間帯の競合が激しく、効率的な配送が難しいという課題がありました。
加えて、全国的に人手不足が深刻化しており、特に物流業界ではドライバーの確保が難しい状況にありました。
こうした課題が複合的に影響し、ネットスーパー事業は計画通りに進まず、撤退を決断せざるを得なかったのです。
セブン&アイの大転換―コンビニ事業専念への布石
セブン&アイ・ホールディングスは、ネットスーパー事業からの撤退を機に、事業の大規模な再編を発表しました。
2025年には社名を「セブン-イレブン・コーポレーション(仮)」に変更し、コンビニエンスストア事業に一層の集中を図る方針です。
今回の発表の背景には、コンビニ事業がグループ全体の収益の柱であり、最も強い事業セグメントであることが挙げられます。
実際、セブン-イレブンは国内での店舗展開が進んでおり、収益力も高く安定しています。
これに対して、スーパー事業は競争が激化しており、収益率が低下している状況です。
このため、スーパー事業や外食事業を中間持ち株会社を通じて分離し、セブン-イレブンのブランド力を一層強化することを目指しています。
さらに、セブン-イレブンはデジタル技術を駆使した無人店舗の導入や、店内でのセルフレジ普及など、消費者の利便性向上を目的とした新しいサービス展開にも力を入れていく予定です。
これにより、他の競合チェーンと差別化を図り、さらなる成長を見込んでいます。
消費者への影響―ネットスーパー利用者の行き場は?
ネットスーパー事業からの撤退は、消費者、とりわけ高齢者や忙しい家庭に大きな影響を及ぼすことが予想されます。
特に、都市部の住民にとって、重い商品やかさばる商品の購入を代行してくれるネットスーパーは生活の一部となっていました。
SNS上では、イトーヨーカ堂のネットスーパーを愛用していた利用者から「突然の撤退は残念」「他のサービスではカバーできない部分がある」といった声が上がっています。
特に高齢者や共働き世帯にとっては、食料品の宅配サービスが日常生活の一部となっており、他のサービスへの移行が必要となります。
一方で、ライバルとなるネットスーパー事業者は、この機会を活かして顧客を取り込むチャンスです。
例えば、Amazonフレッシュや楽天西友ネットスーパーなどは、既に都市部での強力な物流網を持っており、競争が激化する可能性があります。
今後、ネットスーパー市場はより一層の競争が予想され、サービスの質や配送スピードの向上が鍵となるでしょう。
業界全体への影響―競合他社の動向
今回のセブン&アイの再編は、他の小売業界にも波紋を広げています。
例えば、イオンは自社のネットスーパー事業を強化し、全国展開を進めています。
イオンは、生鮮食品や日用品の即日配達サービスを強化する一方で、オフラインとオンラインを融合させた「オムニチャネル戦略」を積極的に推進しています。
これにより、消費者の利便性を高め、店舗での買い物とオンライン注文の両方を組み合わせた柔軟なサービス提供を行っています。
一方、ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)も、独自の低価格戦略と多様な商品ラインナップを武器に、競争力を高めています。
また、最近のトレンドとして、サブスクリプション型の食料品配送サービスも注目を集めています。
これにより、消費者は定期的に商品を受け取ることができ、安定した購買体験を提供できるため、リピーターの獲得に繋がっています。
今後の展望―セブン&アイの次なる一手
セブン&アイは、ネットスーパー事業からの撤退後も、デジタル技術を駆使した新たなサービス展開を模索しています。
特に注目されるのは、AIやロボティクス技術を活用した無人店舗の普及です。
これにより、消費者は24時間いつでも買い物ができ、接触を最小限に抑えることが可能になります。
また、セブン-イレブンは、「健康志向」のトレンドにも対応する形で、ヘルシーな食品ラインナップの拡充も進めています。
特に、サラダや低糖質メニューなど、健康を意識した商品は、現代の消費者ニーズに応え、さらに売上を拡大する可能性があります。
さらに、今後は店舗ごとのデータ分析を強化し、各地域に最適な商品展開を行うことで、地域ごとのニーズに応じたサービスを提供する予定です。
これにより、競争が激しい都市部だけでなく、地方市場でのシェア拡大も期待されます。
まとめ
イトーヨーカ堂のネットスーパー事業からの撤退は、小売業界における大きな転換点となりました。
その背景には、売上目標の達成困難や物流コストの増加があり、事業の維持が難しくなったことが挙げられます。
一方で、セブン&アイはこの機会にコンビニ事業へと専念し、さらに強固なビジネスモデルを構築することを目指しています。
今後のセブン&アイの展開には、無人店舗の普及やヘルシー商品ラインナップの拡充などが含まれ、消費者にとっても利便性が向上することが期待されます。
一方で、競合他社も同様にデジタル化や配送サービスの強化を進めており、今後の小売業界はさらに競争が激化することが予想されます。