「このベースライン、どうやって弾いてるの?」
King Gnuのライブや楽曲を聴いたことがある方なら、一度はそう思ったことがあるはずです。
なかでも圧倒的なグルーヴと鋭いアタックで聴衆を魅了するベーシスト──新井和輝さん。
彼が紡ぎ出す音には、テクニックだけではない「音の哲学」があります。
この記事では、彼の使用機材から演奏スタイル、実際の楽曲での音作りの工夫までを、体験談や一次情報を交えて深掘りしていきます。
「音楽で勝負する男」新井和輝とは
新井和輝さんは、東京藝大出身の常田大希さんらとともにKing Gnuの立ち上げメンバーの一人。
JAZZ・FUNK・ロックを横断する多彩な音楽性を支える要であり、ベースという低音楽器に対する概念を変える存在です。
筆者自身、2023年の横浜アリーナ公演に足を運び、その場で感じたのは「音に重さがある」ということ。
重いだけでなく、浮かぶような軽さ、跳ねるようなリズム、時に切なさすら滲むその音には、彼自身の哲学が詰まっていました。
【使用ベース】Fenderシグネチャーモデルは“戦う楽器”
◆ Deluxe Jazz Bass V Kazuki Arai Edition(Fender)
2023年、Fenderから新井さんのシグネチャーモデルが登場。
5弦仕様で、ローB弦の重低音がしっかりと出るのが魅力。
本人は「このモデルは、まさに“戦える楽器”だと思ってます」とインタビューで語っていました。
アッシュボディ、ローステッドメイプルネックの組み合わせにより、明瞭かつタイトなサウンドを実現。
ライブ会場で聞いた「Slumberland」では、イントロのグルーヴがこのベースから炸裂していました。
他にも愛用ベースは多数あります:
- Fender American Deluxe Jazz Bass V
- Black Smoker BETA-5(Act.mod)
- Atelier Z M-265 Custom(過去使用)
ジャンルによって使い分け、繊細に音のキャラを変えています。
【エフェクター】“あの音”を作る秘密兵器たち
◆ BOSS SYB-5 Bass Synthesizer
King Gnuの「Sorrows」や「Teenager Forever」のイントロでは、シンセのような浮遊感ある低音が特徴です。
実はこれ、新井さんのBOSS SYB-5によるもの。
彼はエフェクターの使い方が非常に巧みで、「違和感があるのに心地よい」サウンド作りが得意です。
◆ MXR M287 Sub Octave Bass Fuzz
重厚なドライブ感を出すにはこれ。
「飛行艇」のAメロなど、単なるファズではなく“音の芯”を失わずに歪むサウンドを実現しています。
◆ EarthQuaker Devices Palisades
変化に富んだ歪み系ペダル。
セッティング次第でクリーン〜ダーティまで自在に表現できます。
ライブでは、曲中で足元を踏み替える彼の姿に注目すると、音の変化と連動していて驚きます。
【アンプ】プロユースの信頼性と柔軟性
◆ Aguilar Tone Hammer 500 + SL112
彼の定番セット。
軽量なのに出力が強く、どの会場でも安定してクオリティを保てるのが特徴です。
実際に筆者もTone Hammer 500を使用したことがありますが、EQの可変範囲が広く、どのジャンルにもフィットする万能アンプ。
新井さんは、ミドルをややブースト気味に設定し、指弾きのニュアンスをしっかり出す方向で使っているようです。
【演奏スタイル】新井和輝にしか出せないグルーヴ
彼のプレイを語るときに避けて通れないのが「間(ま)」です。
音を詰め込むのではなく、時に“鳴らさない”ことで空間を演出する──これは彼がJAZZやSOULの影響を強く受けている証拠です。
例えば「The hole」では、最低限の音数で最大限の感情を伝える“減算の美学”が活きています。
対照的に「飛行艇」では、ゴリゴリに弾き倒す大胆なアプローチ。
柔と剛のバランスが新井和輝の真骨頂です。
また、右手のピッキングポジションを曲中で細かく変えるのも特徴。
ピック弾きやスラップではなく、指弾き一本でここまで音色を操る技術には圧倒されます。
【影響を受けたアーティスト】“聴く”ことの積み重ね
新井さんは、Red Hot Chili PeppersのFlea、JamiroquaiのStuart Zender、さらにはジャズベーシストのRon Carterにも言及しています。
音楽大学での基礎から、ポップスにフィットするプレイスタイルまで──
「自分の型を持ちながら、どんな音楽にもフィットできるベーシストを目指している」と過去に語っていたように、彼のルーツは非常に広いです。
【体験談】筆者がライブで感じた“ベースの主役感”
2023年12月、King Gnuの東京ドーム公演で体感したのは、まさに「ベースが曲を引っ張る」瞬間。
「白日」のイントロ、静寂を切り裂くように低音が響き、会場全体が息を呑みました。
たった一音で空気が変わる──そんな演奏をするベーシストは多くありません。
【まとめ】新井和輝の機材と演奏は、“語る音楽”そのもの
新井和輝さんの機材は、どれも彼の音楽性を100%表現するための選択です。
シグネチャーモデルに込められた哲学、
選び抜かれたエフェクター、
柔軟で信頼性の高いアンプ──
そして、どんな道具よりも彼自身の「耳」と「感性」が、King Gnuのグルーヴを生み出しています。
彼の音を“聴く”ことは、音楽の深さを再認識する旅でもあります。
ベースという楽器の可能性を広げ続ける、新井和輝のこれからに、ますます目が離せません。
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