2025年、米マクドナルドが発表した多様性目標の廃止は、世界中のビジネスシーンに波紋を広げました。
かつて、社会正義の象徴的な取り組みとして注目されたDEI(多様性、公平性、包摂性)の施策は、どこへ向かうのでしょうか。
本記事では、マクドナルドがこの決定に至った背景と、進化する新たな取り組みの実態を深掘りします。
さらに、日本市場や他企業との比較を通じ、多様性施策が持つ本質と未来を考察します。
多様性施策の廃止、その背景にあるもの
保守派の圧力が生んだ転換期
2024年、米連邦最高裁はアファーマティブアクションを違憲と判断しました。
これを契機に、米国では多くの企業がDEI関連施策を見直しています。
マクドナルドも例外ではなく、保守派活動家からの圧力が、今回の多様性目標廃止の背景にあるとされています。
保守派の主張は、「特定の人種や属性への過剰な優遇が逆差別を生む」というものです。
こうした意見の高まりを受け、企業は社会的責任と事業効率の間で難しい舵取りを求められています。
法的状況の変化が引き金に
法律面でも、企業の多様性推進を支える環境は変化しています。
最高裁判決後、多様性を推進する施策に対する法的な異議が増加。
これにより、リスクを避けるためにDEIの削減や撤廃を選択する企業が増えています。
マクドナルドは、この変化を受けて「法的状況の変化を評価した」と述べています。
マクドナルドの「進化する多様性施策」
「目標廃止」から「日常業務への統合」へ
マクドナルドは、目標を廃止する一方で、日常業務に「包摂的な慣行」を取り込む方針を打ち出しました。
例えば、サプライチェーンにおいて、業務成績との関連性に基づく包摂性の議論を進めるとしています。
具体例として、あるサプライヤーが指摘しています。
「多様性を意識した供給契約の変更が進み、取引条件がより公平になった」(米国サプライチェーン担当者)
多様性チームの改組
「グローバル・インクルージョン・チーム」へ改称された多様性推進チームは、従来の目標達成型から、現場主義型へと変貌しました。
これにより、現場の声を重視しつつ、実効性のある施策を展開することを目指しています。
従業員の声に耳を傾ける
マクドナルドで長年勤務する女性管理職は、今回の施策変更についてこう語ります。
「確かに意欲的な目標がなくなることで不安もありますが、現場レベルでの多様性推進がむしろ重要だと感じています。今後、具体的な行動が問われます。」
他企業との比較から見るマクドナルドの立ち位置
ウォルマート:リスク管理を重視した縮小
ウォルマートは2024年、多様性施策を縮小すると発表しました。
この動きは、保守派圧力に対抗するのではなく、ビジネス上のリスク回避を優先したものでした。
コストコ:多様性への強いコミットメント
一方、コストコは保守派の提案を「ビジネスに不利益」として真っ向から否定。
多様性を推進し続ける姿勢を鮮明にしています。
マクドナルドの戦略的中立
マクドナルドのアプローチは、これら二社の間に位置します。
意欲的な目標を掲げることは避けつつも、日常業務への多様性の統合を継続する姿勢は、現実的な選択といえるでしょう。
日本市場への影響と展望
マクドナルドの施策変更が日本市場にどう影響するかは注目されるポイントです。
日本では、企業の多様性施策がグローバル基準に追随しており、米国の動きは国内企業にも影響を与えると考えられます。
日本マクドナルドの広報担当者によれば、
「日本市場では、従業員の多様性を大切にする取り組みは継続される」とのことです。
これは、日本独自の文化や法律を考慮した対応であると言えるでしょう。
多様性施策の未来を見据えて
今回のマクドナルドの決定は、企業戦略における「多様性の新たな形」を示しています。
重要なのは、目標を廃止したからといって、多様性そのものが否定されたわけではない点です。
むしろ、業務に溶け込む形で進化し、社会に対して実効性のある形で展開されていくことが期待されます。